Paleontological Research 日本語要旨

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2014 Vol.18 No.4, No. 3, No. 2, No.1

2014 Vol. 18 No. 4

Ozawa, H. and Ishii, T., 2014: Shallow-marine ostracods from the lower Pleistocene Kazusa Group in the Tama Hills, central Japan, with their biogeographical significance in the Northwest Pacific Ocean. Paleontological Research, vol. 18, p. 189-210.

多摩丘陵の下部更新統・上総層群から産した浅海生貝形虫(甲殻類)化石と北西太平洋における古生物地理の意 義

小沢広和・石井 透

"東京湾の西方に位置する多摩(たま)丘陵の上総(かずさ)層群(約1.7~1.4 Ma)から,56種の貝形虫を識別し,古環境と古生物地理を考察した.これは関東地方における,更新世前期の貝形虫化石群の産出例としては,初の報告であ る.Qモードクラスター分析を行い,3つの化石群を認定した.分析の結果,この期間の東京湾付近の浅海は,内湾と外洋の3タイプの環境下にあったことが判 明した. この化石群は,古生物地理において産出意義のある複数の種を含んでいる.その一例が現生する好冷性種Laperousecythere robustaで,本研究はこの種を東京 湾付近の太平洋沿岸から初めて報告した.本種は2 Ma頃に,日本海に最初に出現したことが知られている.今回の産出データを含めて推察すると,本種は2 Ma以降に,日本海から津軽海峡を通って東京湾付近まで南下し,遅くとも1.6 Maには北西太平洋縁域まで生息場を拡げていたとみられる.本属の日本海固有の5種は更新世に絶滅したが,本種だけが太平洋にも分布を拡大したことが,現 在まで生き延びた要因の1つと推測される.  また内湾生2属Bicornucythere, Spinileberisも産出した.これらは鮮新世の沖縄本島付近に起源を 持ち,鮮新世後期以降に日本列島沿岸を北上したことが知られている.今回の報告から推測すると,2属は遅くとも1.6~1.4 Maには南方海域から東京湾付近へ移動し,内湾環境に定着して生息し始めていたとみられる.  この他に好冷性1属Pectocythereと,内湾生3属Paracathaycythere, Neomonoceratina, Sinocytherideaについて古生物地理を考察した. このように本研究の貝形虫種産出データは,新生代後期の北西太平洋縁域における浅海生底生生物の北上・南下の経路と時期,およびこれらと氷期-間氷期間 の気候変動に伴う海洋環境変動との因果関係を論ずる上で重要である."

Yabumoto, Y., 2014:?Sinamia kukurihime, a new Early Cretaceous amiiform fish from Ishikawa, Japan. Paleontological Research, vol. 18, p. 211-223.

石川県産前期白亜紀のアミア目魚類の新種Sinamia kukurihime

籔本美孝

アミア目シナミア科シナミア属の新種Sinamia kukurihimeを石川県白山市桑島の手取層群石徹白(いとしろ)亜層群桑島(くわじま)層から産出した舌顎骨(ぜつがっこつ)と他の骨や鱗をもとに記載した.本種は他のシナミア属魚類と主に舌顎骨,前頭 骨,主上顎骨などの形態で異なっている.本種はシナミア属の中ではS. liaoningensisにもっとも近縁と考えられる.本種は日本初のシナミア属魚類であり,その存在は白亜紀に本属魚類が東アジアの広い範囲に分布し,多様であったことを示している.

Humblet, M. and Iryu, Y., 2014: Pleistocene Coral Assemblages on Irabu-Jima, South Ryukyu Islands, Japan. Paleontological Research, vol. 18, p. 211-223.

琉球列島南部伊良部島の更新世サンゴ群集

マーク ハンブレ・井龍康文

我々は,琉球列島南部(南琉球)の伊良部島に分布する中部更新統の礁性石灰岩から,40属83種の造礁サン ゴの産出を認めた.これらのデータを,すでに報告済みの喜界島(北部中琉球)ならびに沖縄島(南部中琉球)の更新世造礁サンゴ群集のデータと統合して,統 計解析を行った.統計解析の結果をフィールドにおける造礁サンゴ群集の観察結果と併せることにより,礁の古環境を推定した.琉球列島の第四紀サンゴ礁堆積 物は,露頭では“浅海”と“深海”の両方の造礁サンゴ群集から構成されている.一般に,琉球列島の中では,造礁サンゴの多様性は南方に向かって増加する. 本研究で行った統計解析の結果は,造礁サンゴ化石群集の組成が,地理的および生息環境により大きく異なっていることを示している.伊良部島の礁斜面上部の 造礁サンゴ群集は,沖縄島との礁斜面上部の造礁サンゴ群集と類似しており,主にAcroporidae(Isopora paliferaや枝状のAcropora spp.),被覆状~板状のPorites spp.,枝状のPocilloporidaeが卓越する.これに対して,喜界島の礁斜面上部の造礁サンゴ群集では,Porites?spp.やFaviidae(Cyphastrea?spp. やFavia pallidaグループ)が多くみられる.伊良部島の礁斜面下部の造礁サンゴ群集では,PoritesあるいはMontipora属に属する薄いラミナ状の群体が卓越し,随伴種としてStylocoeniella sp.,,Leptoseris spp.,Fungiidaeの小型個体, Trachyphyllia geoffroyiMontastrea valenciennesiがみられる.伊良部島の2 つの大きな露頭のデータは,礁斜面上部の造礁サンゴ群集に比べ,礁斜面下部の造礁サンゴ群集の方がより組成が変化に乏しいことを示している.

Shen, S.-Z. and Tazawa, J., 2014: Pararigbyella and Dicystoconcha (Lyttoniidina, Brachiopoda) from the middle Permian (Wordian) of Japan. Paleontological Research, vol. 18, p. 245-249

日 本の中部ペルム系(ワード階)から産出したリットニア亜目腕足類PararigbyellaとDicystoconcha

沈 樹忠・田沢純一

リットニア亜目のパーミアネラ類は,分枝した裂片(lobe) を持つ特殊化した腕足類である.この論文では,東北日本南部北上帯の上八瀬?飯森地域の中部ペルム系(ワード階)から産出した2種のパーミアネラ類,Pararigbyella doulingensis Shen and Zhang, 2008とDicystoconcha lapparenti Termier and Termier in Termier et al., 1974を記載,報告する.P. doulingensisはわが 国では初めての産出記録である.Parararigbyellaの分布はテチス区(カタイシア区)に限られ る.一方,Dicystoconchaは主にテチス区に分布するが,北半球におけるボレアル区-テチス区漸移帯(境界帯)および南半球におけるゴンドワナ 区-テチス区漸移帯(境界帯)にも分布する.

Isozaki, Y., Kase, T., 2014:? The occurrence of a large gastropod “Pleurotomariayokoyami Hayasaka from the Capitanian (Permian) Iwaizaki Limestone in Northeast Japan. Paleontological Research, vol. 18, p. 250-257.

東北日本,キャピタニアン階(ペルム系)岩井崎石灰岩からの巨大巻貝“Pleurotomariayokoyami Hayasakaの産出

磯崎行雄・加瀬友喜

ペルム紀の巨大巻貝“Pleurotomariayokoyami Hayasakaが南部北上帯(気仙沼市)の岩井崎石灰岩から産出した.小型の平旋回巻貝Porcellia sp.を伴う.これらの化石の産出報告は極めてまれで,これまでに西南日本の赤坂石灰岩とトルコ西部のBalya Maden地域からの産出に限られる.赤坂石灰岩が超海洋パンサラサ中央部の低緯度域の海山上の礁をなしていたのに対し,岩井崎石灰岩は陸源砕屑岩優勢の浅海陸棚層中にパッチ礁として堆積した.岩井崎石灰岩からの本特異群集の産出は,同石灰岩が同様にペルム紀の低緯度域で,とくに東方延長が東北日本にまで及んでいたと推定される南中国地塊の大陸棚で堆積したことを示唆する.

An Early Triassic ichthyopterygian fossil from the Osawa Formation in Minamisanriku Town, Miyagi Prefecture, Japan. Paleontological Research, vol. 18, p. 258-262.

宮城県南三陸町に分布する大沢層から産出した前期三畳紀魚鰭類化石

高橋 唯・中島保寿・佐藤たまき

宮城県南三陸町に分布している下部三畳系大沢層は,ペルム紀末の絶滅からの海洋生態系の回復過程を記録しているが,これまでに報告されている爬虫類化石は魚鰭類Utatsusaurus hataii Shikama et al., 1978のみであった.本研究では,属種不明であるが肋骨の形態からUtatsusaurus hataiiとは異なる魚鰭類であると判断される化石を記載する.この新しく発見された魚鰭類は,本層の爬虫類相の多様性が高かったことを 示唆している.

2014 Vol. 18 No. 3

Iglikowska, A., 2014: Stranded: The conquest of fresh water by marine ostracods. Paleontological Research, vol. 18, p. 125–133.

取り残された貝形虫:海生貝形虫の淡水への進出

アンナ・イグリコゥスカ

海生貝形虫による淡水域への進出は,石炭紀前期から開始したと考えられる.貝形虫の最初の低塩分環境への進 出は,海岸線周辺,もしくは河川や三角州環境で海進期に一時的に形成された池からおそらく始まった.このような環境では,海水準変動や海水の蒸発,降水な どに伴って塩分が急激に変化するので,最初の低塩分環境へ進出した貝形虫は広塩性の種であった可能性が高い.こうした環境へのもっとも明瞭な適応が低塩分 環境への耐性といえる.現生貝形虫の研究によれば,貝形虫が効率的な浸透圧調整機構を持っており,さまざまな塩分に広い耐性があることが知られている.こ れら以外にも,無性生殖と有性生殖の併用,休眠する,もしくは乾燥に強い卵,幼生の世話をしていたことも,さまざまな塩分での耐性に寄与している可能性が ある.貝形虫はおもに炭酸塩からなる背甲を持っているので,淡水域では背甲形成が非効率であったかもしれない.しかし,石炭紀前期の海岸沿いの池には,最 初に淡水に進出した貝形虫が炭酸塩からなる背甲を形成するのに十分な成分があったと考えられる.

Murakami, M., Shimada, C., Hikida, Y. and Hirano, H., 2014: Asymmetrical basal delphinoid skull from the upper lower Miocene Yamato Formation of Hokkaido, northern Japan: implications on evolution of cranial asymmetry and symmetry in Odontoceti, Japan. Paleontological Research, vol. 18, p. 134–149.

北 海道の下部中新統大和層から産出した左右非対称な基盤的マイルカ上科の頭骨化石:歯鯨亜目における左右非対称及び左右 対称な頭骨の進化に関する重要性

村上瑞季・嶋田智恵子・疋田吉識・平野弘道

北海道北部,中川町の下部中新統の大和層から産出した基盤的マ イルカ上科の左右非対称な頭骨化石を記載した.頭骨は以下のような明瞭な左右非対称性を示す.左前上顎骨の鼻骨突起は右前上顎骨のそれより長い,中篩骨と 左右の前頭骨は左に2.9°傾いている,右の鼻骨は左の鼻骨より大きい.化石を包含していた石灰質団塊の石灰質含有量から化石の変形を評価すると,当該化 石を包含していた団塊は続成過程の初期に形成され,化石は圧密の影響をほとんど受けていないと考えられる.本標本は分岐分析によりマイルカ上科に位置づけ られる.このことから,マイルカ上科において左右非対称な頭骨の化石記録は中新世初期の後期にまで遡ることになった.また,同上科の基盤的なタクサにおい て,頭骨の左右非対称性は以前に考えられていたより一般的であると考えられる.一方,祖先形質推定ではマイルカ上科の共通祖先は左右対称な頭骨を持ってい たと示唆される.左右非対称な頭骨がエコロケーション(echolocation)をする上で有用とされるにもかかわらず,なぜ歯鯨類には二次的に左右対 称な頭骨を進化させるものが収斂して現れたのか?実は,現生の歯鯨類で左右対称な頭骨を持つものはNBHFクリック(Narrow-Band High-Frequency Clicks)という周波数が高く狭い超音波でエコロケーションを行う.NBHFクリックを用いる種は小型で大きな群れを作らないという共通した特徴を持 つ.そして,NBHFクリックは彼らの天敵であるシャチには周波数が高すぎて聴き取ることができない.したがって,NBHFクリック(とそれに関連する左 右対称な頭骨)はシャチからの捕食圧を下げるための適応であると考えられている.絶滅した歯鯨類捕食者の中には高周波の音を感知できなかったのではないか と指摘されているものもおり,我々は左右対称な頭骨を持つ基盤的なマイルカ上科などの化石種も,現生種のようにNBHFクリックを用いて捕食者を避けてい たのではないかという仮説を提唱した.

Goto, T., Irizuki, T., Yanagisawa, Y. and Hayashi, H., 2014: Microfossil biostratigraphy and paleoenvironments of the upper Pliocene Kuwae Formation, Northeast Japan. Paleontological Research, vol. 18, p. 150–168.

上部鮮新統鍬江層の微化石層序と古環境

後藤隆嗣・入月俊明・柳沢幸夫・林 広樹

新潟県胎内市坂井に分布する上部鮮新統鍬江層上部は微化石を豊富に含む.ここから産出した貝形虫,珪藻,お よび浮遊性有孔虫のような微化石に基づき,生層序を確立し,古環境変動の復元を行った.結果として,調査地域の地層は岩相および珪藻生層序に基づき3つに 区分され,下部と中部はN. koizumiiの急増層準 (D85, 3.1~3.0 Ma)より下位に対比された.浮遊性有孔虫化石の示準種であるGloborotalia inflata (s.l.)は中部から上部にのみ多産した.このように,調査層準は鮮新世の日本海側の生層序帯として使用されるNo. 3G. inflata bedに対比された.貝形虫化石群集のRモードクラスター分析を行った結果,4つの貝形虫種群が認定された.この結果に基づくと,調査層準の古環境は浅海 から上部漸深海帯で,少なくとも,1回の海水準変動サイクルが認められた.さらに,貝形虫の1新種,Hemicythere sakaiensis Goto and Irizuki を記載した.

Kase, T. and Aguilar, Y. M., 2014: The gastropod genus Calyptraphorus (Rostellariidae: Stromboidea: Mollusca): A Lazarus taxon from the Pliocene of the Philippines. Paleontological Research, vol. 18, p. 169–175.

軟体動物スイショウガイ超科Calyptraphorus属:フィリピンの鮮新統から産出したラザロの分類群

加瀬友喜・ヨランダ アギラー

Calyptraphorusは, 白亜紀カンパニアン期に最古の化石記録を持 ち,白亜紀/古第三紀の絶滅事変を生きぬき,始新世末に絶滅したと考えられていた巻貝属である.ここでは,フィリピン・ルソン島北部の中部鮮新統タルタロ 層産のCalyptraphorus 属の1種の産出について報告する.本種はアメリカ南東部やパキスタンの始新統から知られる同属種に似るが,得られた唯一の標本が不完全であるため,詳細な 殻形態の比較ができず,Calyptraphorus sp. とした.この発見により,Calyptraphorus属の最新の 化石記録は始新世末から中期鮮新世へと更新された.本種は,およそ3000万年間の化石記録の欠落後に再び現れたラザロの分類群である.Calyptraphorus属は,始新世末の絶滅事変以降,熱帯北西太平 洋の限られた地域に僅かな個体群密度で生き延びていたと考えられる.

Shigeta, Y. and Nishimura, T., 2014: A new species of Anagaudryceras (Ammonoidea, Gaudryceratidae) from the lowest Maastrichtian of Hokkaido, Japan. Paleontological Research, vol. 18, p. 176–185.

北海道の最下部マーストリヒチアン階から産出 したAnagaudryceras属 (アンモナイト亜目,ゴードリセラス科)の1新種

重田康成・西村智弘

北海道・穂別地域の最下部マーストリヒチアン階(上部白亜系)のNostoceras hetonaiense帯から産出した極細身のAnagaudryceras属アンモナイトを新種Anagaudryceras compressumとして記載した.その殻はやや小型(直径8 cm以下)で偏平,腹側はアーチ状にとがる.成長後期の殻には緩いS字状の低く幅広い帯状の肋が発達する.これはAnagaudryceras matsumotoiの表面装飾に類似するため,両種間の密接な系統関係が示唆される.

2014 Vol. 18 No. 2

Tomida, S. and Kadota, M., 2014: Turbo (Gastropoda: Turbinidae) fossils from the Middle Miocene of Izu Peninsula, central Japan, including the description of three new species. Paleontological Research, vol. 18, p. 67–76.

伊豆半島の中新統湯ヶ島層群から3新種を含むサザエ科リュウテン属巻貝化石

冨田進・門田真人

静岡県伊豆半島の賀茂郡松崎町江奈に分布する湯ヶ島層群中の江奈石灰岩から造礁サンゴや石灰藻に伴い, サザエ類を含む岩礁性貝類などが産出した. 湯ヶ島層群中部の桜田層の年代は石灰質ナンノ化石帯(CN4帯)により中期中新世(14.9–13.5 Ma)であることを示す.サザエ科リュウテン属化石は3新種, Turbo (Turbohosodai sp. nov. (和名 ホソダサザエ,新称),T. (Marmarostomayoshiharuyabei sp. nov. (和名 ヤベサザエ,新称),T. (M.?) sanoi sp. nov.(和名 サノサザエ,新称)と1種T. (M.) matsuzakiensis Tomida and Kadota, 2012(和名 マツザキサザエ,新称)について分類学的な記載と考察を行った. Hirooka et al. (1985) による古地磁気の研究や,Williams and Duda (2008) による分子分岐年代から, キングチサザエ亜属(Marmarostoma)が漸新世-中新世 以降に南西太平洋で種分化や放散したことを示唆する初記録である. "

Tanoue, K. and Okazaki, Y. 2014: The first basal neoceratopsian dinosaur from the Lower Cretaceous Kanmon Group in Kyushu, southwestern Japan. Paleontological Research, vol. 18, p. 77–81.

西南日本,九州の下部白亜系関門層群から産出した初の基盤的新 角竜類恐竜

田上響・岡崎美彦

西南日本,九州の下部白亜系関門層群から産出した遊離歯標本は,当初ハドロサウルス科と同定された.本論文 において,歯冠に見られる幅広く,突出した一次稜線,非咬合面において一次稜線右側にある浅い窪み,歯冠基部の水平方向に伸びる歯帯の存在に基づき,本標 本は新角竜類の歯と再同定された.発達しない歯帯と浅い窪みは本標本がケラトプス科ではなく,基盤的新角竜類のものであることを示す.本標本は九州の下部 白亜系から産出した初の基盤的新角竜類標本である.

Tsai, C. -H., Fordyce, R. E., Chang, C. -H. and Lin, L. -K., 2014: Quaternary fossil gray whales from Taiwan. Paleontological Research, vol. 18, p. 82-93.

台 湾から産出した第四紀の化石コククジラ

蔡 政修, R. ユワン フォーダイス, 張 鈞翔, 林 良恭

台湾島と澎湖諸島の間の海底から, コククジラ類の若齢個体の化石2点が産出した. 化石の年代は第四紀で, おそらく完新世の初期 (古くとも11-12ka) である. いずれの標本も頭蓋の後部, すなわち破損した前頭骨から後頭顆までが保存されているが, 耳骨 (耳周骨・鼓室胞) を欠く. いずれの化石標本でも, コククジラ類に特徴的な上後頭骨の突出 (paired tuberosities) が見られるが, 標本が不完全であること, そして現生コククジラ (Eshcrichtius robustus) との間に形態の違いがあることから, 化石は Eschrichtius sp. として報告するにとどめた. 本報告は, 台湾における化石コククジラ類の初記録であり, 第四紀におけるコククジラ類の化石産出年代のレンジを広げるものである. また, 産出標本が若齢個体であることは, 当該海域が当時の繁殖や生育の場であったとする考えと調和的である. 

Niko, S. and Sone, M., 2014: Actinocerid cephalopods from the Ordovician of Myanmar, and their paleobiogeographic implications for northern Gondwana. Paleontological Research, vol. 18, p. 94‒103.

ミャンマーのオルドビス系から産出したアクチノセラス目頭足類および北部ゴンドワナ超大陸における古生物地 理学上の意義

児子修司・曽根正敏

シブマス地塊に属するミャンマー北東部シャン高原のオルドビス系浅海性石灰岩層からアクチノセラス目頭足類 化石群を記載した.構成種はOrdosoceras theini sp. nov.,Armenoceras myanmarense sp. nov.,Paratunkuskoceras sp.,Wutinoceras moeseini (Thein) で、フロイアン世(前期オルドビス紀)からダーリウィリアン世(中期オルドビス紀)を示す.Ordosoceras の存在や類似種の分布から北中国地塊上の化石動物群と強い結びつきが認められる一方,同時代のオーストラリアのものとの類似性は弱いことが,本群の特徴で ある.主にシブマス,北中国,オーストラリアで構成される北部ゴンドワナ超大陸においては,前二者が面していたパレオテチス海の陸棚海域でアクチノセラス 目動物群間の交流が行われていたが,オーストラリア内陸部に発達した堆積盆にはその影響は及ばなかった可能性がある.

Yamada, K., Terakura, M. and Tsukawaki, S., 2014: The impact on bottom sediments and ostracods in the Khlong Thom River mouth following the 2004 Indian Ocean tsunami. Paleontological Research, vol. 18, p. 104–117.

ク ロントム川河口域の底質堆積物および貝形虫に対する2004年インド洋大津波の影響

山田 桂・寺倉雅美・塚脇真二

津波の底質堆積物および底生生物への影響を明らかにするため, マレー半島西岸に位置するクロントム川河口において,2004年インド洋大津波の前後の底質堆積物を採取し,底質堆積物と貝形虫の変化について検討した. 津波の4ヶ月後は陸からもたらされた植物片が津波前には見られない地域にまで広く分布していたが,2008年にはそのほとんどはなくなっていた.一方,貝 形虫群集は津波前後でほとんど変化がみとめられなかったが,貝形虫の個体群密度や産出量は数日で変化するとの報告もあることから,津波から4ヶ月間に津波 の影響から回復したと推察される.

2014 Vol. 18 No. 1

Shigeta, Y., 2014: Morewites, a new Campanian (Late Cretaceous) heteromorphy ammonoid genus from Hokkaido, Japan. Paleontological Research, vol. 18, p. 1–5.

北海道から産出したカンパ ニアン期(白亜紀後期)異常巻きアンモナイトの新属Morewites に ついて

重田康成

北海道・浦河地域のカンパニアン階(上部白亜系)から産出した白亜紀異常巻きアンモナイトの新属 Morewitesを提唱する.その殻は,成長初期には塔状に巻くが,巻軸が90度回転して緩い平面螺旋状の巻きに変化する点でノストセラス科の既存のどの属とも異なる.

Matsubara, T., Noro, I., Matsuura, Y. and Irizuki, T. 2014: Miocene Mollusca from the Ichibu Formation on Nishinoshima Island, Oki Islands, Southwest Japan full access. Paleontological Research, vol. 18, p. 6–32.

隠岐 諸島西ノ島の市部層から産した中新世軟体動物門

松原尚志・野呂一恵・松浦 康隆・入月俊明

島根県隠岐諸島島前(どうぜん)西ノ島に分布する中新統市部(いちぶ)層から7種の腹足綱と21種の二枚貝 綱が識別された.Nipponopecten akihoensis (Saga), Chlamys (Nomurachlamyskaneharai (Yokoyama)およびMiyagipecten matsumoriensis Masudaの共産から,本層の年代は中期中新世最後期~後期中新世最初期(約12.5~11.5Ma)であることが示される.市部層の貝類化石群には暖 流系種が2種が認められるに過ぎず,広温性の要素と北太平洋要素を多く含む.このことは,中期中新世最後期~後期中新世最初期の時代に隠岐諸島周辺の浅海 がわずかに古対馬海流の影響を受ける温帯の海洋気候下にあったことを示している.2新種Costanuculana godaigoi Matsubara, sp. nov.(和名 ゴダイゴソデガイ,新称)およびYabepecten okiensis Matsubara, sp. nov.(和名 オキノホタテ,新称)を含むいくつかの種について,分類学的な記載・考察を行った.

Amano, K. and Jenkins, R. G., 2014: A New Paleocene Species of Aporrhaidae (Gastropoda) from Eastern Hokkaido, Japan. Paleontological Research, vol. 18, 33–39. 

北 海道東部から産出したモミジソデボラ科 (腹足綱)の暁新世の1新種

天野和孝・ロバー ト・ジェンキンズ

北海道東部浦幌町の暁新統活平層から産出したモミジソデボラ科 の新種ウラホロモミジソデボラ(Kangilioptera inouei sp. nov.)を記載した.これは,日本における新生代モミジソデボラ科(Anchurinae亜科)の初記録である.Kangilioptera属 の産出はグリーンランド西部と日本の暁新世の堆積物に限定される.オウナガイ属二枚貝に加え,今回の新発見により暁新世におけるベーリング海峡を通じた日 本とグリーンランドの海洋のつながりの再検討が求められる.

Lach, R., Trzęsiok, D. and Szopa, P., 2014: Life and Death: An Intriguing History of a Jurassic Crinoid. Paleontological Research, vol. 18, 40–44

生と死:あるジュラ紀ウミユリ化石の興 味深い履歴

ラファ・ラック,ダヴィド・トレジェシオク,パトレィシヤ・ソボラ

ポーランド中央部のマウォゴシュチ採石場のキンメリッジアン下部(上部ジュラ系)から,ホソウミユリ目 (Millericrinida)ウミユリ化石のポマトクリーヌス属(Pomatocrinus sp.)の茎部片を発見した.この化石には,付着器の一部と先端側の茎部片が保存されており,表在生物の付着痕やウニの喫食痕が多数観察される.この化石 でさらに重要な事は,茎板からなる支柱が細くなっていることである.そのような病的な構造がこの支柱の突端部にみられるのは,咬痕から推察すると,遊泳生 物によって茎部の先端や冠部が失われてしまい,それらを再生すること無く異常成長した結果とみられる.類似した病的な構造がウミユリ化石に見られる事例 は,少ないものの,オルドビス紀までさかのぼる事が知られている.

Isaji, S. and Okura, M. 2014: Molluscan Larvae from the Carboniferous Ichinotani Formation, Fukuji, Gifu Prefecture, Central Japan. Paleontological Research, vol. 18, p. 45–50.

岐 阜県福地に分布する石炭系一の谷層から産出した軟体動 物の胎殻化石

伊左治鎭司・大倉 正敏

岐阜県高山市奥飛騨温泉郷福地に分布する上部石炭系(モスコ ヴィアン)一の谷層から産出した軟体動物の胎殻化石 を記載した.これらの胎殻化石の大多数は,終殻を伴わず,変態していない.これらの幼生は,Pseudozygopleuridae科巻貝, Streptacididae科巻貝,分類未詳の巻貝,および翼形亜綱と異靱帯目二枚貝に分類され,プランクトン栄養型の幼生発生様式を持っていたと考え られる.本報告は,軟体動物の胎殻化石のみが単体で産出する例として,日本の古生層から最初の報告となる.

Ehiro, M., Nishikawa, O. and Nishikawa, I., 2014: Early Permian (Asselian) ammonoids from the Taishaku Limestone, Akiyoshi Belt, Southwest Japan.  Paleontological Research, vol. 18, p. 51-63.

秋 吉帯帝釈石灰岩産前期ぺルム紀 Asselianのアンモノイド

永広昌之・西川  冶・西川 功

広島県庄原市東城町三原野呂に分布する,秋吉帯に属する帝釈石 灰岩宇山野層からアンモノイド7属8種が記載された.ゴニアタイト目の AgathicerasNeoglaphyriteEmilitesSomoholitesMarathonitesEoasianites,プロレカナイト目のMetapronoritesの7属で,わが国の 前期ぺルム紀(Cisuralian)のアンモノイドフォー ナでは最も多様である.2新種Neoglaphyrites discoidalisSomoholites miharanoroensisを含み,EmilitesSomoholitesMarathonitesお よびMetapronoritesの4属はわが国から,また,パンサラッサに起源をもつ地質体からは初の産出報告となる.7属の共存期間から,三原野呂フォーナの年代は最後期石炭紀Kasimovianから最前期ぺルム紀Asselianの間にあるが,いくつかの種が Asselianから知られている種に類似するので,Asselianである可能性が大きい.

2014年以前の日本語要旨

2014年より前の日本語要旨はありません.

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