会長声明 博物館学芸員の果たしている役割

先月,博物館の「学芸員」を誹謗する発言が報道され,大きな社会問題になりました.
日本古生物学会は,錯誤と無理解に起因するこのような発言を遺憾に思うと同時に,学芸員が果たしている真の役割をより多くの方々にご理解いただき,皆さまの一層のご支援をお願いする次第です.

化石は,過去の地球や生物界の様子を記した最も重要な物的証拠ですが,その発見から発掘・収集・保全・収蔵整理・研究・展示・社会教育に至るまで全てに関わっているのが博物館の学芸員です.
その中で,化石標本の研究を通して新たな付加価値を生み出す「知的創造」こそが,博物館の学芸員の中核的な役割のひとつです.

わが国の一般市民は教養豊かな方が多く,その知的ニーズに応えるのは並大抵のことではありません.
そのため,古生物学を始めとする自然史分野の学芸員の多くは大学院で高度な研鑽を積み,修士号・博士号を取得しています.
彼らは日常の博物館業務に忙殺されていますが,その合間に古今東西の文献に目を通し,最新の分析手法を習得し,自腹を切って国内外の学会に参加して研究交流を深め, さらに研究成果を学術雑誌に公表するなど,人の眼に触れないところで絶えず「知的創造」を行っています.
彼らが標本・資料に新たな価値を付加し続けてくれるおかげで,常勤の学芸員がいる博物館では,地域や規模の大小にかかわらず,学術的レベルの高いユニークな展示や社会教育が行われており, その活動は国内外から高く評価されています.専門分野に関する世界的な権威として尊敬を集め,国際的な名声を博している学芸員も少なくありません.

一方,博物館の標本や野外の露頭などの地質学的名所を観光資源として適正に活用するのは,文化的に見て有意義だと思います.
しかし経済的な打算のみが先行し,肝心の「知的創造」を伴わない単なる「見世物」ではすぐに飽きられてしまい,長い眼で見た場合,文化的観光資源として持続できないことは誰の眼にも明らかです.
日本古生物学会は,古生物学の進歩と普及を目的に1935年(昭和10年)に設立され,多くの学芸員とともに80余年の歴史を歩んで参りました.

私たちは 学芸員による「知的創造」がより一層発展し,その成果をより広く社会に還元できるよう,今後も博物館および学芸員の活動を支援してゆく所存です.


2017年5月8日 日本古生物学会会長
前田 晴良

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